【第4回 月例会レポート】合同会社FOOD GROOVE JAPAN 鈴木基次社長に学ぶ、茅場町・月商1600万円の「10年続く」店づくり

第4回月例会の集合写真
第4回月例会にご参加いただいた皆さまと📸

2026年8月25日(火)、「10年続く飲食店経営協会」第4回 月例会を開催しました。会場は、日本橋茅場町の「米と魚 さかなさま 日本橋茅場町店」。この日のゲスト・鈴木社長ご自身が手がけられている、まさにその現場での開催です。😊

ご参加いただいた皆さま、告知にご協力いただいた皆さま、そして貴重な営業前のお時間と会場を惜しみなくお貸しくださった鈴木社長・スタッフの皆さま、本当にありがとうございました。今回は「聞けば聞くほど、飲食店の見え方が変わった」という感想を本当にたくさんいただきました。その熱のまま、レポートにまとめてみます。

目次

「10年続く店」をつくるために

この会は、いかにして飲食店経営を末永く続けていくか——をテーマに掲げた、経営者の方とサポート業の方が垣根なく学び合う場です。2026年5月に立ち上がったばかりの、まだ生まれたての協会です。

飲食店で10年以上続くお店は、全体のおよそ1割と言われています。裏を返せば、9割が10年もたない。だからこそ、そこの力になることに意味がある——そう考えて立ち上げました。

私たちが目指しているのは、10年以上、成長し続ける飲食店経営をサポートできるプラットフォームになること。ビジョンは「日本一、飲食店経営が上手になる学び合いの場」。そして大切にしている理念が、「みんなで勝つ」ということです。一人で抱え込むのではなく、うまくいった人の知恵をみんなで分け合う。そのために、毎回の月例会では次の3つを大切にしています。

  • 困っているときに、経営のやり方や必要な知識を知れる場になること
  • 今までの考え方から「進化」すること
  • 過去の成功体験から、一度抜け出してみること

そして第4回のテーマは、「茅場町で月商1600万円!今話題の海鮮居酒屋、大成功の秘訣とは!?」。オフィス街のど真ん中、しかも路面ではなく地下。土日祝はビジネス街が静まり返る立地です。そこで、なぜ結果が出続けているのか。包み隠さず聞かせていただきました。

第4回のゲスト —— 合同会社FOOD GROOVE JAPAN 鈴木 基次 社長

会場となった「米と魚 さかなさま 日本橋茅場町店」の外観
会場は、鈴木社長が手がける「米と魚 さかなさま 日本橋茅場町店」。この日の教材そのものでした。

今回ゲストとしてお迎えしたのは、合同会社FOOD GROOVE JAPAN 社長 鈴木 基次(すずき もとつぐ)氏です。

「ホテルオークラ東京」の関西割烹「山里」で基礎を学ばれた後、数々の飲食店で総料理長・取締役を歴任。40店舗を超えるメニュー開発や店舗の立ち上げを手がけてこられました。前職では、新橋を拠点に多店舗展開する居酒屋企業の取締役・総料理長、そして社長まで務められています。

そして2020年、「心ふるえる食体験を、一緒に。」をコンセプトに「FOOD GROOVE JAPAN」を設立。料理人を「食のリレーの最終アンカー」と位置づけ、生産者と消費者、都市と地方をつなぐ地方創生・食育活動を展開されています。会場となった「米と魚 さかなさま 日本橋茅場町店」は、その初の直営店にあたります。

進行は、理事メンバーが鈴木社長に次々と質問を投げかけるパネルディスカッション形式。台本らしい台本はありません。冒頭のご挨拶で、鈴木社長はご自身のことをこう表現されました。

「基本はフードグルーヴジャパンという、生産と消費の情報の分断を解決することを目的としたコミュニティの運営団体です。そこからいろんな事業をやっていて、そのうちの一つが飲食事業。このお店をプラットフォームにして、たくさんの方の関係地を広げる場所として使っています」

——飲食店を、飲食店として説明されなかった。この最初のひと言に、この日の75分がすべて詰まっていたように思います。

開店2年で月商1600万円 ——「3つの柱」を言語化する

「米と魚 さかなさま」がオープンしたのは2024年の夏。この月例会の直前、7月16日でちょうど2年を迎えられたところでした。その2年で、月商1600万円の店になっている。

「どんな取り組みをして、何を大切にされてきましたか」という質問への答えは、驚くほど整理されていました。

  • ここに来る理由
  • ここに来て、感動してもらう仕組み
  • このお店が10年後も残り続けていく仕組み

「この3つを、ちゃんと言語化できることが大切だと思っています」。

そのうえで、こうおっしゃいました。「飲食業って、誰でもやりやすいんです。お金さえあれば出せるし、人がいれば出せる。でも結局お客様って、何を食べたいとか、そこで何を感じたいとか——晴れの日であったり、非日常の空間であったり、ストレス解消の場であったり。日常のプラスアルファ、息抜きの憩いの場であることが、居酒屋はすごく大切だと思っています」

「そのときに、そこに行く価値というものが我々は何なのか。それを自分が言語化していなければ、お客様に伝えることができない。それをすごく大切にしてきたことが、成功の最低条件だと思います」

ここから何を学べるか

「いい店をつくる」ではなく、「来る理由・感動する仕組み・10年残る仕組み」の3つに割って、それぞれ言葉にする。ここが決定的でした。言葉になっていないものは、スタッフにも伝わらず、お客さまにも伝わらず、当然メニューにも販促にも落ちません。逆に言えば、この3つが言語化できていれば、判断に迷ったときの物差しになります。あなたのお店の「ここに来る理由」を、いま10秒で言えますか。

ライバルのいない場所を選ぶ ——「ブルーオーシャンに出す」という発想

なぜ茅場町だったのか。ここが、この日いちばん多くの方がメモを取っていた場面かもしれません。

「前職は新橋を拠点にしていて、新橋ってご存じのとおりサラリーマンの聖地と言われる場所です。線路を挟んで反対側はまさに銀座。ライバルがすごく多いんですね」

「その規模感の土地を、そのままこの茅場町という場所に置いてみると、ブルーオーシャンなんですよ。ビジネス街があって、マンションも多い、ホテルも多い。これって新橋とすごく近い要素がある。でも、自分がそこに店を出したときにライバルになるお店の数を比べたら、数百店舗くらいの差がある。ということは、数百店舗ぶんの敵がいないんです」

ここで会場から、素直な疑問が出ました。「ブルーオーシャンって、逆に集客が難しいんじゃないですか」。

「家賃が高くても路面で、フリーのお客様がいっぱい来るような場所にお店を出すのが、いちばん楽なんです。でもそれは、お客さんが100%来る場所じゃないと出せない。逆に、それにあやかってしまうと努力しないんですよ。『このままだとお客さんが来ないから、自分たちは何を表現するか』をちゃんと一生懸命考えていく。その考えたものが答えとして返ってくるほうが、自分たちのやっていることが積み上がりやすい」

実際、店の周りは夜になると人通りがほとんどないそうです。「夜、ぜひ来てください。外に一人も歩いてないですよ。なんですけど、入ったらここが満席なので、お客さんがまず困るんです。『どういうこと?』って。帰るときも本当に一人もいないから、みんなそれが面白いらしいですね」

笑いが起きましたが、これは笑い話ではありません。人が歩いていないのに満席——それは「通りかかった人」ではなく「わざわざ来た人」だけで埋まっているということです。

ここから何を学べるか

立地選びを「人通りの多さ」で決めていないか、ということです。人通りが多い=ライバルも多い。そして人通りに頼れる立地は、努力しなくても埋まってしまうぶん、店が鍛えられない。「新橋と同じ要素を持っていて、ライバルだけが数百店舗少ない場所」という探し方は、そのまま自分の商圏でも使える発想です。あなたの街の「新橋」はどこで、その要素を持った「茅場町」はどこですか。

平日と土日で、来る人が違う ——4つの客層を見きわめる

オフィス街の弱点は、言うまでもなく土日祝です。ところがこの店は、土日祝もしっかり結果を出しています。

「月曜から金曜は、ご存じのとおりビジネス街ですから、接待だったり飲み会だったり。もちろん食事もしますが、どちらかというとお酒を飲みながら仕事の話やプライベートの話。ただし予算は決まっている。だから平日はコースが多いんです」

「でも土日は違います。旅行でどこかに行って『じゃあ何食べよう』となったときのお金の出し方がちょっと違うと思うんですよ。せっかくここに来たんだからいいもの食べたいとか、一品多く頼んじゃったりとか、店員さんに『ここのおすすめは何ですか』と聞いてみたりとか。普通の日常の居酒屋使いと、ここに来る人たちの目的が、大きく違うんですよね」

そこで見きわめたのが、土日祝に来る4つの層でした。

  • ファミリー層 ——「子どもがいるし、やっぱりご飯が必要ですよね」
  • カップル・近隣にお住まいの方
  • ホテルに宿泊されている方 —— ディズニーランド、有明、東京ドーム、ライブ。「東京に来た理由」がある人たち
  • インバウンド ——「これは後から来ると思っていたので、一回置いておいた」

特にホテル客への読みが具体的でした。「みんな『今日はすごく良かった』となって、最後はいい、美味しいものを食べて終わりたいわけですね。ネットで調べたら、うちが出てくる。だったら、うまいものを紹介すればいい」

「そこで何が美味しいのかを明確化したのが大きかったです。お米を食べに来る、お魚を食べに来る——それをはっきりさせた」

ここから何を学べるか

「土日が弱い」で終わらせず、曜日ごとに来店動機が別物だと切り分けたのがポイントです。平日は「予算が決まった宴席」=コース設計、土日は「せっかくだから」=単品とおすすめの強化。同じ店でも、売る商品も接客も変えていい。そして初めての土地で店を探す人はネットで調べるからこそ、そこに「うちの売りの商品」が出せているか、口コミが積み上がっているかが直結します。この店は「この辺ではいちばん口コミが多い」状態を、地道につくってこられました。

店名で、もう宣言してしまう ——「米と魚」

ここで、私が個人的にいちばん唸ったところを。

「うちはそれを最初からしているんです。『米と魚』って、最初に名前に入れて。土日の集客で『ご飯が美味しい店ですよ』ということを、ターゲットに向けて言いました」

屋号が、そのまま看板商品の宣言になっている。検索する人にも、通りかかった人にも、初めて予約する人にも、説明する前に伝わってしまう。

ここから何を学べるか

販促の費用も、説明の手間も、いちばん安く済ませる方法は「店名に書いてしまうこと」です。WEBで集客するときも、店名に商品が入っていれば検索で拾われやすくなります。今すぐ屋号は変えられなくても、グルメサイトやGoogleビジネスプロフィールの店名まわり、サブタイトル、看板の一行には今日から入れられます。あなたのお店は、名前で何を宣言していますか。

暇な日は、コミュニティで埋める ——お店が「場」になるということ

オープン当初から土日が埋まっていたわけではありません。ここで出てきたのが、この日のもう一つの核でした。

「土日は最初、来ないんですよ。ということは、暇なときに集客できるノウハウを持っていればいいわけですね。なのでコミュニティを、お店が作るべきだと僕は言っているんです」

実際、オープン初期は入口のカレンダーが埋まるほどイベントを入れていたそうです。「最初のころは本当にイベントをめちゃくちゃやっていて。それをやり続けたので、逆に今はイベントを自社でやらなくてもよくなった」。空いている日を、自分たちの手でお客さまで埋め続けた結果、埋めなくてもよくなった、ということです。

この考え方を、ある同業の方に助言された事例も紹介されました。若いスタッフが新しいことに挑戦したがっているけれど、良い食材は原価が高くて経験させてあげられない——という相談です。

「毎日100人くらい来てくれるお店なんですよ。あなたを慕っているコアなお客様がいっぱいいらっしゃるでしょう。それを自分のコアなコミュニティにしたらいいんじゃないのって。普段は客単価3,500円くらいだと思うけど、『従業員にスペシャルな技術や経験を与えたいので、皆さんの力を貸してください』と言って、数か月に1回だけ1万5,000円の会をやる。『美味しいものが出るかどうかは分からないけど、若い人たちの挑戦を助けてください』って」

「コミュニティがあれば、そこに上げたらみんな来てくれる。お客様からいただいたお金で、いい食材を買って、従業員に経験を与えられる。これがコミュニティのいちばんの強みです」

そして、ご自身の原点についてこう続けられました。「売上が悪かったら、自分でお客さんを呼べばいい——これは僕たちの世代の考え方です。じゃあどう呼ぶかといったら、お客様とちゃんとチームを組んで、同じ志を持った仲間になる。コミュニティがあれば『こんなイベントやるよ』と言える。それだけで、売上が普通に維持できるんです」

「だけど、みんな設備を持っているのに、目的を持った人が集まる場所としてお店を活用できていない。すごくもったいないなって、いつも思うんですよね」

その延長で、いまは自治体や企業から「1か月、この店を使ってフェアをやってほしい」といった依頼も入るようになっているそうです。お店が「場」になった瞬間、飲食以外の売上が入ってくる。

ここから何を学べるか

ここは、明日から試せる方が多いはずです。①暇な曜日・時間帯を特定する ②常連さんを「お客さま」から「仲間」に招待する ③普段より高い単価の、特別な会を月1回だけつくる。ポイントは、「儲けたいから」ではなく「スタッフに経験を積ませたいので力を貸してください」という頼み方をしていることです。応援したくなる理由があるから人が集まり、売上もついてきて、その売上でスタッフが育つ。あなたのお店の空席は、埋めるものではなく、使うものかもしれません。

ウェルビーイングは、売上の話である

FOOD GROOVE JAPANは、企業研修事業も手がけられています。テーマはウェルビーイング。横文字だと入りづらいのですが、鈴木社長の説明は明快でした。

「簡単に言うと、心と体と社会が、継続的に安定して良い状態にあることです」

そして、なぜ飲食店にこそ必要なのか。

「会社ってみんな数字数字で、目標達成を目がけてやろうとする。でも、単純に寝不足なわけですよ、飲食店は。寝不足で、みんなちゃんと食べていない。自分のパフォーマンスが100のうち60くらいしかない人たちの集合体と、健康管理を会社も含めてスタッフ全員が意識しました、という人たちが、よーいドンで新しい課題に取り組んだら——どっちが結果を出しやすいかって、図で分かるじゃないですか

「これが僕たちで言う石垣、屋台骨なんですけど、経営者はそこをあまり見ていないんですよ。会社の売上を上げるのは、結局一人ひとりの健康管理と栄養管理が整っているかどうか。それで売上はすごく変わります

組織としては、会社側が「心理的安全性」を提供し、従業員側が「やりがい」を持つ——その関係性をつくることが最重要課題だと位置づけられています。

「飲食店を辞める人って、だいたい店長が嫌とか、話を聞いてもらえないとかなんですよ。でも、みんなが同じ目的を見つけた瞬間にチームになる。だからうちはまず否定をやめて、やってみて、2か月やってダメだったらやめればいいじゃんという進め方にしています。僕にも普通に文句を言ってきますよ。社長がトップだから社長の言うことを全部聞かなきゃいけない、という組織ではない

そのために、就業規則もかなり手厚くされているそうです。「家族の誕生日に1日休みを増やすとか、女性ならではの事情で特別に休んでいいですよとか。『それも就業規則に入れなきゃいけないの?』というくらい細かく入れています。だけど、それがあることによって安心して働ける。『契約書に書いていないからダメ』ではなく、ちゃんとしたルールとしてあるということが、すごく大事だと思っています」

ここから何を学べるか

ウェルビーイングを「福利厚生」や「やさしさ」の話として聞くと、コストに見えます。売上を出す装置としての健康管理——という置き方をすると、まったく別の話になります。寝不足のまま気合で回している店と、整えてから走り出す店では、同じ施策を打っても結果が違う。そして「まず否定をやめる」「2か月やってダメならやめる」は、今日から会議で使える一行です。人が辞める理由の多くは、待遇そのものより「言っても仕方ない」という諦めのほうにあります。

11席のカウンターから、40店舗超の会社の社長へ

ここからは、前職での歩みです。新橋を拠点に多店舗展開する居酒屋企業に約13年間勤められ、最終的に社長を務められました。

始まりは、11席の小さなカウンターの店。「『うまくいったら、鈴木さんにここを譲るよ』と人参を吊るされてやるわけですよ」。

ところが数か月で軌道に乗ってしまう。「カウンター商売だから、毎日一回来てくれるお客様がいる。当時ちょうど食べログが最盛期を迎える段階で、うちの点数が3.8。それでずっと予約が埋まっていました」。会社として初めて予約管理システムを居酒屋に導入したのも、この店だったそうです。

そして、周りの店が次々と任されるようになる。「1か月でここの姉妹店という形になって、それからもう全部そうなっちゃった」。

しかし、拡大の途中で問題が起きます。当時は歩合の色が強い給与体系で、売上が上がると店長クラスで月80万円といった金額になっていた。

「そうすると人間って、自分で努力していないから勘違いをしていくんですね。偉そうになっていく。お金が散財されるんですよ。これはやばいなと思って。社長の売上が上がればいいわけじゃないので、会社としてちゃんと理念を作りましょうよって言ったんです」

ここから何を学べるか

数字が上がっているときこそ、いちばん危ない——という話です。稼げているから人が育っている、とは限らない。「自分で努力していないのに手取りが増えると、人は勘違いする」という指摘は、インセンティブ設計をしている店にとって耳の痛いところだと思います。そして、それに気づいたときの答えが「制度をいじる」ではなく「理念を作る」だったのが、この方らしいところでした。

「三方よし」では、誰も動かなかった —— ジャズセッションという理念

ところが、理念づくりは最初からつまずきます。

「『うちの会社は三方よしだし』と言われて。いや、居酒屋のスタートで三方よしって言われて、やる気になるやつ、いないんだよなって。『会社よし、従業員よし、お客様よし、だからみんな頑張ろう!』って言われて『ヘイッ!』ってなるやつ、俺は見たことねえなって」

会場が大きく沸いたところです。正論だけれど、現場が動かない言葉——飲食店で働いたことのある人なら、誰もが思い当たるはずです。

そこで「じゃあ自分の業態のチームは、自分で考えなよ」と言われ、現場のメンバーと話し合って出てきたのが、こういう言い方でした。

「みんな年齢も近いし、僕の言うことも聞かない。オーケストラなんて無理だよって。だからジャズで行きましょうと。誰かが『助けて』って言ったら助けられるし、うまくいったらみんなで乗っかっていける。これがジャズだから、ジャズセッションにしようって」

指揮者が全員を一糸乱れず動かすオーケストラではなく、各自が自分のパートを持ちながら、その場で応え合うジャズ。同じ「チームワーク」という言葉でも、現場の腹落ちがまったく違います。

ここから何を学べるか

理念やスローガンは、正しさより「現場の口から出てきた言葉かどうか」で決まります。上から降ってきた四字熟語は、朝礼で読み上げられるだけで終わる。逆に、自分たちの実感から出た比喩は、指示がなくても機能します。あなたのお店の理念は、アルバイトさんが自分の言葉で言い換えられますか。

生産者を応援する ——「プラチナフィッシュ」から2020年へ

その理念づくりと同時に生まれたのが、生産者を応援する取り組みでした。

「みんな食材や生産者から知識を得ているのが強みなんだから、じゃあ生産者を応援しようと言って生まれたのが、産直と食育をグループでやりましょう、というスタートです」

最初はまったく相手にされなかったそうです。「当時はいろんな県に資料を作って挨拶に行って——といっても、ただの料理を作っている板前さんですから。資料とかよく分からないし、作っても門前払い。予算は決まっているし、行政のルールがやっと分かってきた、という感じでした」

転機は、ある方からの紹介でした。「『宮城県のこういう人たちと、あなたは組まなきゃダメ』と言われて。最初は渋々『いいですよ』と組んだら、1か月の仕入額だけでポンと大きく上がるわけです。すると担当者の方の手のひらが返って、『食育活動をやりませんか』と」

「そうしたら岩手県をやるわ、福井県をやるわ。年を越えたら秋田県が出てきて、沖縄も出てきて。勝手にどんどん大きくなっていった」

2016年、宮城県からスタートしたこの取り組みは、店舗ごとの強みを打ち出したフェアへと広がっていきます。「新橋にあるか、犬も歩けば当たる」と言われるほどの規模になり、「今日はどの店に予約が入っている」と社内で取り合いになるほどだったそうです。

そして2020年。コロナ禍で、自治体と組んで新橋で予定していた大きな企画が飛びました。「もう自治体の人たちのカードも無理だよね」——そこで生まれたのが、FOOD GROOVE JAPAN でした。

ここから何を学べるか

「生産者とつながる」は、耳ざわりのいい言葉として語られがちです。でもここでの実態は、資料を作って県庁に持っていって門前払いされるところから始まっています。そして突破口になったのは、紹介と、相手にとっての実利(仕入額という数字)でした。理念だけでは扉は開かない。相手の立場で、相手の成果になる数字を先に出す。これは行政に限らず、あらゆる協業に当てはまります。

独立の理由は、「会いに行ける自分になる」ため

40店舗を超える会社の社長を任されていた立場から、なぜ独立されたのか。理由は、拍子抜けするほどシンプルでした。

「いろんなコミュニティの関係を持った人が、北海道から沖縄までつながるんですよ。やっぱり会いたいじゃないですか。『鈴木さんに会いたい』って言ってくれるんですよ。でも会うためには、僕は現場に入っているから、みんながここに来るしかない。それじゃいけないよなと思って。自分がいろんなところに行けるような関係地を作らなきゃいけないと思って、辞職しました」

「自分は生産と消費をつなぐことを理念としてやっていく。それが人生として楽しいな、と」

ちなみに、独立にあたっては「自分の店を持たないと引っ張れないですよ」という助言をくださった方や、店の立ち上げに手を貸してくださった方がいらっしゃったそうです。前職時代の取り組みを、その裏側まで見てくださっていた方々でした。10年以上かけて積み上げた仕事が、そのまま次の扉の鍵になった——という話でもあります。

ここから何を学べるか

独立の理由が「もっと稼ぎたい」でも「自分の城が欲しい」でもなく、「会いたいと言ってくれる人に、自分から会いに行けるようになりたい」だった。ここに、この方の一貫性があります。そして、その独立を支えたのは資金ではなく過去の仕事を見ていた人たちでした。いまの現場での積み上げは、辞めた瞬間にゼロにはならない。誰が見ているか分からない、という意味でも。

10年続けるために ——「生産者とつながれない店は、残らない」

最後に、この会のテーマそのものを投げかけました。「10年、飲食店を続けていくうえで大切なことは何ですか」

「僕は本当に変わっていて、着眼点が普通の飲食店とはちょっとずれているんです。なぜかというと、生産者側に片足が入っているからなんですけど」——そう前置きしたうえで、こう続けられました。

「これから食材は、自分たちが思ったものが入らなかったり、コストが高かったり、お手頃なものは『それ大丈夫なの?』というものが出てきたり——そういう時代が、あと数年で本格的に来ると思っています。皆さんが当たり前に食べていたサバも、いまや高級魚になりつつある。海水温も上がっています」

「だから、食べ物を作る人たちと、どう僕たちがつながるべきか。せっかくつながることができているんだったら、料理人が出す料理がすべてではなく、作っている第一次生産者の人たちのストーリーを、僕たちがファイナルアンカーとしてお客様に届ける。エンドユーザーのお客様は、僕たちには『ありがとう』を言ってくれるんだけど、もっと言わなきゃいけないのは、農家さんであったり、休みなしで働いている漁師さんであったり——その人たちですよね」

「じゃあ飲食業の使命って何かと言ったら、お金を稼ぐこともそうだけど、生産者を守ることもすごく大切なんじゃないか。だってその人たちがいるから、僕たちは商売できるよねって。このつながりが作れない飲食店は、多分これから厳しいんじゃないかなと思っています」

そして、それは単なる理想論ではありません。「ちゃんとストーリーから言えるもの、自分が食べて自信を持ってすすめられるもの」があれば、価格が高くても選ばれる。実際に、相場よりかなり高い一品が、ストーリーとともにすすめることで日々きちんと出ている——という具体例も挙げてくださいました。

魚と茄子の煮物
この日いただいた一皿。「誰が獲って、誰が作ったのか」を語れる食材が、そのまま店の強みになります。

「生産者も嬉しい、僕たちもハッピー、お客様もいいものを食べられる。この三つが揃うのが、いちばん大切な時代かなと思います」

ここから何を学べるか

これは「いい話」ではなく、仕入れのリスク管理の話として聞くべきだと思いました。食材が取りにくくなり、値上がりし、品質がばらつく。そのとき、顔の見える相手から優先的に回してもらえる店と、市場でその都度買う店とでは、5年後にまったく違う景色になります。そして「ストーリーが語れる一品」は、値上げの説得材料そのものです。あなたのお店で、いちばん高い一品の産地と作り手の名前を、スタッフ全員が言えますか。

会場そのものが、教材だった

「米と魚 さかなさま」店内のロゴ
店内に大きく描かれた「米と魚 さかなさま」のロゴ。稲穂と魚が円を描いています。

お話を聞きながら顔を上げると、言っていることが、そのまま壁に描いてありました。稲穂と魚が円を描くロゴ。店先に並ぶ「魚」の提灯と、魚を描いたのれん。「米」と「魚」を宣言するという話も、「ここに来る理由」を言語化するという話も、顔を上げれば実物がそこにありました。

そして地下への階段。人通りのない路地。「ブルーオーシャンに出す」という話を、その現場で聞く。これ以上に説得力のある教室はありません。

懇親会まで、大盛況

お造りの盛り合わせ
焼き魚
豚しゃぶのおろしのせ
白身魚の天ぷら

第2部の懇親会も、そのまま「米と魚 さかなさま 日本橋茅場町店」で🐟

勉強会のあとは、同じ会場でそのまま懇親会へ。艶やかなお造りの盛り合わせ、香ばしく焼き上がった魚、山盛りのおろしをのせた豚しゃぶ、揚げたての天ぷら、そして出汁のきいた煮物——「米と魚」の名前は、伊達ではありませんでした。「生産者とつながる」という話を聞いた直後に、その食材を実際にいただく。これ以上に説得力のある懇親会はありません。😊

勉強会の熱がそのまま続き、業態や立場を越えた相談や名刺交換が止まりませんでした。鈴木社長を囲んで自店の課題を直接ぶつける方、「うちの空いている曜日でコミュニティの会をやってみよう」「まず自分の店の“来る理由”を言語化してみる」と、その場で自店に当てはめて語り合う方——あちこちで新しいご縁が生まれていました。

こうして第4回も、最後まで大盛況のうちに幕を閉じました。「10年続く飲食店経営」を、これからもみんなで一緒に。次回の月例会も、さらに学びの多い時間にできるよう準備を進めてまいります。どうぞお楽しみに。😊

そして、営業前の貴重なお時間に会場をご提供いただいたうえに、失敗も本音も惜しみなく分かち合ってくださった鈴木社長、そしてスタッフの皆さまに、心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

▶ 登壇いただいたゲストの企業情報
合同会社FOOD GROOVE JAPAN(社長 鈴木 基次 氏)/米と魚 さかなさま 日本橋茅場町店

是非🙏シェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次